エングレービングとドライポイント(直接法)
エングレービングでは、ビュランと呼ばれる道具で溝を彫って図柄を作ってゆく。ビュランとは、V字型の刃をもった彫刻刀(三角刀)のような道具で、その削りくずは彫りだされ、版上には残らない。これに対してドライポイントでは、 先の尖った、きわめて硬度の高いニードルなどで版に線描する。
ドライポイントは基本的に版にキズをつけるだけなので、削りくずは線の周辺に突きでたまま残る (ささくれ、まくれ)。
この違いは版の耐久性の違いとなって現れる。 凹版画とは版上の紙に強い圧力をかけてインクを転写する技法である。エングレービングは凹部以外の版面はフラットなので、多量の印刷を経ても版が劣化しにくい。紙幣の印刷にエングレービングが用いられるのはそのためである。
ドライポイントの場合は、刷れば刷るほど、線の周辺の突起部が押さえつけられ、次第に線がつぶれてくる。印刷の少ない版であれば、線の周辺の突起部にわずかにインクが残るため、線に微妙な陰影がつくが、印刷が進むほどに線はより単調に、より弱々しくなっていく。 早い段階での印刷かそうでないかで、作品の印象も、価値も違ってくるのはすべての版画の宿命であるが、ドライポイントはとくにそれが顕著である。
エングレービングとドライポイントの長短は、版の作りやすさという点では逆転する。 エングレービングはかなりの熟練と労力を要する。エングレービングの大家を挙げる場合、しばしばルネサンス期のデューラーまでさかのぼられるが、そもそも美術史上でエングレービングに長じた作家は限られている。 ドライポイントはそれに比べれば、デッサンの技量が確かなら、習熟しやすく、製版時間も短い。 それでも、溝の深さのコントロールや、「ささくれ」「まくれ」による線の陰影まで計算した製版ができるまでには修練が必要である。

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